【後編】進む自閉スペクトラム症研究 ~私が生きている間に薬を届けたい~
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トピックス2024年07月22日
前編では、自閉スペクトラム症の治療に真っ向から取り組んでいる、金沢大学の西山 正章教授に「遺伝子と自閉スペクトラム症」のお話を伺いました。今回は、原因から考えた治療の行方をリポートします。
がんにならず不老長寿が叶う?自閉スペクトラム症をも救う!
前編では、内科医として肝臓がんの治療を行っていた西山正京教授が、がんに関わる遺伝子であるCHD8の研究会するうちに、自閉スペクトラム症の患者さんにもCHD8に変異が入っていることがわかり、研究を始めたことを記事にしました。このCHD8は、細胞が増植分化を繰り返していく(細胞が生まれかわって新しくなる)間に、越えなければならないというP53という壁を壊す役割を果たしています。通常、P53の壁は増殖・分化を防いでいますが、この壁が全くなければ、細胞は異常な分化を繰り返し、人はがんになってしまいます。
西山 教授は、「CHD8はP53の壁に穴を開け、細胞の増殖・分化を助けています。ですから、理論上はCHD8の量を調節すれば、がんにならず、不老長寿が叶えられるのです」と言います。続けて、「自閉スペクトラム症の患者さんは、CHD8が半分しかないため、イメージとしてはP53の壁が高くて、細胞は細胞は増殖・分化をするための壁がのり越えられないということになります。そのため理論上は、自閉スペクトラム症の患者さんは老化が早くがんにはなりにくいのです。CHD8の量を調節してP53という壁を低くしてあげれば不老長寿を手に入れると同時に、自閉スペクトラム症の患者さんに明るい未来を提供できる可能性があります」と教えてくれました。
治療薬としてのゴールは手軽に使える飲み薬
では、P53という壁を低くする自閉スクトラム症の治療薬は、どこまで完成に近づいているのでしょうか。西山教授は「まだ研究段階ですが、P53の活性を抑える薬はできています。まだ人には応用されていませんが、P53を壊す低分子化合物も開発されています」と言います。「ただ、自閉スペクトラム症本来の原因場所は脳の神経です。薬剤を脳に届けるためには、血液脳関門を通過させなければなりません。
生き物には、外の刺激から脳を守る血液脳関門という仕組みがあります。血液の中に入った有害物質が、簡単に脳に到達しないように、ここで守っているのです。この関門があるため、飲み薬はもちろん、注射や点滴で薬を入れても、血管を通って行けるのは脳の表面まで。神経には入り込めないのです。薬は通常、人にとって有害物質と認識されてしまうので・・・。つまり、うまくそこを通す薬を開発しなければ、自閉スペクトラム症の治療には使えないのです」と西山教授は言います。
脳には水が溜まった空洞があり、そこに注射で直接薬を注入する方法は考えられるとしながらも、「治療薬の最終ゴールは飲み薬です。少なくとも自分が生きている間に治療薬を開発して、自閉スペクトラム症の患者さんたちに行き渡らせるようにするのが、私の夢です」と研究のモチベーションを力強く語ります。