マンガ『リエゾン』を通して、生きづらさを感じている人々や家族の力になれれば
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トピックス2024年12月23日
難しい医療用語を使うわけではなく、児童精神科を描いた医療マンガでありながら、ヒューマンドラマでもある『リエゾン~こどものこころ診療所~』(以下、『リエゾン』)は、研修医であるヒロインの遠野 志保自身が発達障がいを抱えています。なぜ、発達障がいのヒロインを描くことにしたのか、作品に込めた思いを伺うため、『リエゾン』の作者を訪ねました。
『リエゾン』を通して、社会に貢献できる作品を描きたい
発達障がいを抱える研修医の遠野 志保が、もう一人の主人公である児童精神科・佐山クリニック院長の佐山 卓と、さまざまな心の病を抱える子どもたちに向き合っていく医療マンガ『リエゾン』。2020年から「モーニング」(講談社)で連載が始まり、単行本では紙・電子含め、累計部数190万部(2023年末時点)を突破、2023年にはテレビ朝日系でドラマ化(佐山 卓を山崎 育三郞、遠野 志保を松本 穂香が演じる)されるほどの話題作です。
作っているのは原作・漫画ヨンチャンさん、原作・竹村 優作さんのお二人。ヨンチャンさんは『リエゾン』を描いたきっかけを、「もともと『週刊現代』で児童精神科医の特集を受け持っていた編集者が、モーニングに携わることになって、私に持ち込まれた企画です」としつつも、「実は、マンガを描くのは孤独な作業です。睡眠もあまり取れず、毎日、一人でパソコンに向かって作業をしなければなりません。ふと窓の外に目をやると、通勤する人や手をつないで歩く親子が見えます。彼らが社会の一員として生きているのに比べて、自分はこの部屋で置き去りにされている…。そんな感覚に陥るのです。だからこそ、社会とつながっている作品、社会に貢献できるような作品を描きたいと思いました。本当に、このままでは病んでしまうと思ったほどです。だからこそ、生きづらさを感じている人の気持ちが少し理解できるのかもしれません」と教えてくれました。
作品を通して、自分の過去とも向き合う
実際に専門医師が監修し、病院やクリニックを取材しているこの作品には、多くの情報や知識が入っています。作品のために、福井大学医学部や浜松のクリニックに出向き、診療に立ち会ったというヨンチャンさんは、「子どもたちの話を聞いていると、言葉では表現できない生きづらさを感じました。例えば、『何を食べたの?』『お腹がすいた?』など、何を聞いても返事をしない女の子が、『お父さんは、家にいない方がいい?』と聞くと、そのときだけうなずいたんです。まるで自分の過去と向き合っているようで、女の子の気持ちに胸を打たれました」と言います。
実は、ヨンチャンさんにも辛い過去があります。両親が共働きだったため、4歳上の兄と二人で家にいることが多かったそうですが、その兄がいつも暴力を振るっていたと。家に帰るときは「兄が家にいませんように」と祈っていたのだとか。「誰に頼ることもできませんし、家には自分の居場所がないと感じていました。『虐待の連鎖』(2巻に収録)に登場する男の子には、その頃の僕の感覚が描き込まれています。理由も分からず殴られ、怒られて、パンツ一丁で部屋から出される。床の冷たさ、おしっこがちょっと漏れてしまった気持ち悪さ、響いてくる自分の泣き声…そういう感覚は一生忘れません。味方であるはずの家族から苦しめられるんです。そんな理不尽な辛さは、想像だけでは描けません」とヨンチャンさん。
実体験した感覚が描かれているからこそ、読者は登場人物に没入できるのかもしれません。
※ヨンチャン氏が世界観やキャラクターを含め1~2話を作り、3話以降、共同原作者・竹村優作氏が脚本を執筆し、監修を医師2名が務める体制に。ヨンチャン氏はストーリー作りにも参加しながら、さらに演出・展開を加えつつ漫画を制作。ヨンチャン氏のオリジナルエピソードの他、打ち合わせ用にプロット→絵コンテ→脚本という段階を踏むなど、その制作手法は多岐にわたる。
ヨンチャン
韓国出身。高校卒業後に訪日し、京都精華大学マンガ大学でマンガを学ぶ。「第4回THE GATE」で『ヤフ島』が大賞受賞。2018年、スポ根×ラブコメボート漫画『ベストエイト』(全4巻)でデビュー。現在、単行本15巻が発売されている『リエゾン』は、2作目の連載作品となる。